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交響曲第5番(シベリウス)の世界!

 

皆さんごきげんよう

 

さて、今回ご紹介するのはシベリウス作曲の交響曲第5番変ホ長調作品82です!

 

待って!行かないで!自然を愛するアナタや北国を恋しく思うアナタなら、きっと好きになってくれるに違いないのです!

交響曲だからって、全てが分かりにくくて退屈なわけではありませんから!!

 

 

かく言う私も、「シベリウスは掴みどころがなくて難解」みたいなイメージをずっと持ってて、演奏する機会もなくて、シベ2とシベコン以外はずっと聞きもせずにここまで来ました。

 

しかし今年の春、ひょんなことから初めてこの曲を聴きました。

 

何この感じ。曲中30分間続いた、この予感。

あ、僕、恋をした、って思いました。

 

ですから一度だけ、ご紹介だけさせてほしいのです…!そして、一度だけ、聞いてみてほしいのです…!

 

 

シベリウスは1915年、自らの生誕50周年祝賀演奏会のために、この曲を作曲しました。Wikipediaによると、この交響曲を作曲中の1915年4月、散歩の途中で近づいてくる春の気配にこの交響曲のインスピレーションを得たことを書き記しているそうです。

 

 

春の気配。

日本に住んでいる私たちにとっての春の気配といえば、何があるでしょう。

梅の香り、たけのこ、色づき始めた桜の花。スーパーマーケットの新玉ねぎ、新じゃが、春キャベツ。眠気を誘う春の陽気。

と、えも言われぬワクワク感。

 

 

 

しかしシベリウスが目にした光景は違いました。

 

「空を羽ばたく16羽の白鳥の群れ」

あまりの感動に、シベリウスは「人生の中でも素晴らしい体験の一つだった!」との言葉を残しているそうです。

 

シベリウスの言葉です。

「日はくすみ冷たい。しかし春はだんだん近づいてくる。今日は16羽の白鳥を見ることができた。神よ何という美しさか。白鳥は私の頭上を長いこと旋回して、くすんだ太陽の光の中に消えて行った。自然の神秘と生の憂愁、これが第5交響曲のテーマなのだ。」

 

…………………………

フィンランドの冬は、それは厳しいものなのでしょう。日本人の私たちには想像もつきません。

緯度の高いフィンランドの冬は、極夜といって、一日中太陽が上らない地域もあるそうです。(いわゆる「白夜(びゃくや)」の反対です。)

これが相当人々の気を滅入らせるそうで、鬱の症状を発症する(越冬症候群、季節性感情障害)方も多いんだとか。

一日中薄暗くて、寒くて、気だるくて、眠気が支配する冬。東京に暮らす私の想像を絶する不毛の季節です。

 

そんなフィンランド人のシベリウスが目にした春の気配とは。

何ヶ月も待ち侘びた朝日の光。雪解け水、ふきのとう、冬眠から目覚める動物たち。

河辺の熊、葉を伝う露。雪の中から姿を現した森の土。

ブワっと舞い上がる春の強い風、森の木々の嬉しそうなざわめき。

そして、太陽に向かって飛び立っていく16羽の白鳥たち。

 

 

フィンランドの冬を知るシベリウスにとって、これ以上に神々しく感動的な光景は世界中どこにもないのでしょう。

自らの誕生日をお祝いする題材として、これほど適切で心踊る題材はない、そう思ったとしても、何の疑問もありません。

 

そんなことに思いを馳せながら、是非一度聴いてみてください。

 

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ではここからは、各楽章をご紹介していきます。

 

 

第一楽章 

初稿の段階では第一楽章、第二楽章としていたものを改訂し融合させたものだそうで、ソナタ形式の前半、スケルツォの後半から構成されます。

冒頭、ホルンによる牧歌的な問いかけに、木管楽器群が答えます。

木管楽器は英語で【woodwinds】と訳されるのですが、まさに、ホルンが鳴らした春の鐘を、木管楽器が爽やかな春風(winds)となって国中に届けている様が浮かびます。みんな、起きて!春だよ!

その様子は、血が一気に全身に巡っていく感じというか、視界が一気にフルカラーになっていく感じというか、温かくて嬉しくて、安心感に満ち溢れた気持ちにさせてくれます。

 

暖かくて柔らかくて、でもどこか神秘的な物語の終盤に登場する、トランペットの低音によるファンファーレ。

私はこれを聞いて、海上自衛隊旗(旭日旗)のような神々しい太陽の光を想起していました。

 

少しずつ昇っていく弦楽器の分散和音に、山々から漏れ出る真っ直ぐな朝日の光は湖に反射してキラキラと揺れ、それはもはや西風の神ゼフィロスがもたらす柔らかな春の気配などではなく、仏様の後光のような有り難く神々しい光。

そして華々しく感動的な4音で第一楽章を結ぶのです!

 

第二楽章

変奏曲の形式による緩徐楽章です。主題を6回変奏させて進行します。

交響曲第5番の、第二楽章で、変奏曲。といえば………そう、ベートーベンの「運命」です。そういえば第一楽章終結の4音も、運命の動機に似てるような……?

クラシックを知ってくると、そういう所が勝手に繋がって「エモ」や「胸熱」が何倍にも広がっていくんですよね!

ちなみに(酔っ払う前の)オーケストラのメンバーはこの手の話が大好きです。

 

さて、第二楽章のお話に戻りましょう。

第一楽章が、湖と山々越しに臨む、朝日の堂々たる日の出だとしたら、第二楽章はもっとグーーンとミクロの視点のように感じます。

舞台は針葉樹の森。葉っぱを伝う雪解け水が地面や池に垂れ落ちるような、軽快で瑞々しいビオラ・チェロのピチカートから物語はスタートします。

日は高くのぼり、
木漏れ日は優しく大地の雪を溶かし、
凍った河川は雪解け水により流れを少しずつ増やし、
その河辺には冬眠から目覚めた熊やトナカイが水を飲みに集まり、
森は生気と活気を取り戻していくのです。

なんて事のない、フィンランドの森の平安に満ちた春の1日。それがこんなにも美しく、愛おしいなんて。そんなシベリウスの幸せなため息が聞こえてくる様です。

そしていつまでも続くかに思えた変奏曲は、オーボエのソロにより、とってもチャーミングなスタッカートで、突然終わりを迎えます。それはまるで、森を眺めるシベリウスの、春のうたた寝という最高に幸せな結末。

 

 

 

第三楽章

冒頭から疾走感が印象的なフィナーレです。

このティンパニと弦楽器のトレモロによる始まりを聞いたとき、炭酸飲料のCMでよく見るような、真正面からの風に前髪が揺れるのを感じました。
ブワッと舞い上がる、春の強風。

 

ミクロの視点から、森を駆け抜ける風の視点に変わります。

木々を揺らし、葉っぱや砂を舞い上げ、やがて風は鳥たちを乗せて、あの感動的な日の出を見せてくれたこの湖へと辿り着きます。

 

そう、それがシベリウスに「人生の中でも素晴らしい経験」と言わしめた、あの16羽の白鳥たち、というわけです。

フィンランド人にとって、白鳥は特別な鳥なのだそうです。それはもう、国鳥に指定してしまうほどに。

白鳥は渡り鳥で、南方で冬を越し、春になると北国のフィンランドに帰って来ます。そしてフィンランド人は、春が来てあの優雅な白鳥が我が国に帰ってくるのを心待ちにしているのだそうです。

 

鐘の音を想起させるホルンの跳躍のフレーズに、木管楽器が印象的なオブリガートを乗せて、16羽の白鳥たちはこの国へと戻ってきたのです。

何という感動的な光景でしょう……音楽からも、その喜びが伝わってきます。

 

ちなみに、この交響曲第5番は、第4番の作曲前に直面していた癌による死の恐怖から解放された喜びを反映しているとも言われており、精神的冬が終わり春になった、白鳥たちが帰ってきてくれた、とも解釈できるかもしれませんね。

 

春の気配、喜びの予感。

あの風は、きっと何かが始まる合図。

シベリウスの生誕50周年を、フィンランド人になりきって、一緒にお祝いしてみませんか?

 

Sibelius: 5. Sinfonie ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Daníel Bjarnason - YouTube